Our Partners生産者の方々をたずねて。

Posted on 11.23.2018 5:32pm

柑橘の島

美味しい柑橘とは何か?と考えた時に一番に思い浮かぶのは酸味だ。どんな果物にも共通することでもあるけれど、酸味の幅が広い果物なので、甘み以上に酸味が思い浮かぶ。

元々、柑橘全般、酸味が強いので収穫してから中には数ヶ月貯蔵して、酸味が抜けるのを待つような品種もある。酸っぱいと、同じ糖度でも甘さを感じにくくなるし、糖酸のバランスはとても大切だ。ジェラートにする場合、甘みは足しやすいが酸味は足しにくい。そして、酸味が強い果物の方が美味しい場合が多い。と個人的には考えている。そういう意味では、柑橘はジェラートにした場合も振れ幅が大きいフレーバーの一つと言えよう。

みかんを食べる時、当たり前だけどまず皮を剥く。皮を剥く時に、皮が折れて皮の果汁が目に入ったことはないだろうか?また、皮を剥いた手の香りを嗅いだことはないだろうか?そう、柑橘類の香りは果肉からではなく、皮の油脂分から一番感じられる。だから、ジェラートを作る時は皮をしっかり擦り下ろすところから始める。みかんを食べる時と同じように。

では、果肉はどうだろう?果肉も品種ごとによって、味の違いはもちろんのこと、粒が大きい小さい、粒が硬い柔らかい、薄皮が薄い分厚い、薄皮が苦い苦くない、種があるない、という風に結構違いがある。同じ品種でも時期によって水分量が違うし、糖酸のバランスも変わってくるので、都度、食べてみてどうするか決めていく。

甘夏のように粒が大きくて硬いものだと、噛んだ時の弾ける感じが美味しかったりするので、そういう品種はジェラートにしても粒を出来るだけ残すようにする。伊予柑のように薄皮が苦い場合は使わない、または少し使う。酸味が弱い場合はレモンを加える。という風に。

そうやって皮も使って、時には葉っぱも使ってという風にした方がよりその素材らしさを追求できると考えているので、無農薬でないと使いにくい。もちろん、果肉の風味の良さもとても大切だ。特に柑橘は先にも書いたように皮から香りがする果物なので、尚更、皮の使い方が重要になってくる。

僕たちは、自然とかけ離れた、どちらかと言えば閉鎖的な環境でジェラートを作っている。でも、それぞれの素材はもちろん自然の中でしか生まれなくて、そのギャップからいつしか生産地を訪れるようになった。どんなところで、どんな人が、どんな風に作っているのか。僕の仕事はジェラートという方法でその素材をより素材らしく、その素材より美味しくすること。そのためには、その素材のルーツみたいなものを知らなくてはならないといけないと思う。

そのスタートの地が愛媛県の北西に浮かぶ中島という小さな離島である。よくよく考えると、日本自体が島国なのだけど、自分たちが島国に住んでいるということなんてスッカリ忘れてしまっているものだ。こうして、空港もない小さな離島に行くと、日本は世界の中では端っこの方にある小さな変わった島なんだろうなと思う。

眩いばかりの海から照り返される太陽の光と吹き抜ける海風が心地良い場所に果樹園がある。点々と柑橘のオレンジ色が山々に見え、奥には海が見える。緑と青とオレンジのコントラストが本当に美しい。12月〜3月くらいの間は品種が変わりながら色々な柑橘が成っているのでこの綺麗な景色を見ることができる。

初めてこの地に来た時、僕はこの景色を自分の中に取り込んでいこうと思った。一見、ジェラートを作るということと、ここに来ることがかけ離れているように思われるかもしれない。でも、ここで作られた柑橘はここにある全ての栄養素から成っていて、ある意味、本質的にはここの景色こそがこの柑橘の味そのものと言えるような気さえする。

俊成さんは、無農薬、有機肥料で柑橘を作っている。肥料は海に打ちひしがれた海藻を自分で拾って来て原料とし、乳酸発酵させて自分で作られている。小さな島にあるものだけで、循環型の素晴らしい農業の在り方だと思う。俊成さんは、土地のこと、島のこと、もちろん、柑橘のことを考えて20年近くこの循環型の農業に取り組んでいる。この小さな島の全てを取り込んだような俊成さんの柑橘は素晴らしく美味しい。

美味しい柑橘のジェラートを作ろう。と考えると、禅問答のようだけど、最初に戻る。美味しい柑橘を知らなくてはいけない。美味しいであろう理由を考えなくてはいけない。ふと、尊敬するイラストレーターの方の言葉を思い出す。森の絵を描く時に単に森を描くのではなく、そこにある木々を一本一本イメージして、そこにいる虫や鳥、土の感じとかをイメージして描くし、それぞれの要素としてどういうものか知らないと本当の森は描けないと言っていて、ジェラートも同じなのかもしれない。

漠然と美味しいであろう柑橘をイメージしても、丸いオレンジ色をした果物。としか思い浮ばなかったけれど、中島に行ってからは、あの太陽と海と果樹園の風景を思い出す。そして、俊成さんと一緒に島を歩きながら色々なことを話したことを思い出す。

柑橘の良さというのは、太陽が燦燦と降り注いでいる様のことで、明るくて華やかなイメージだ。そんな華やかさをシンプルに表現しようと思う。優しい味わいというよりは、キリッとした酸味とそれぞれの品種の違いによる香りと粒感を活かしたジェラートを。