頭と手と
毎年、春が始まりそうな予感がする3月に入って、三寒四温の季節で寒かったり、暖かかったりしながら過ごしていると、3月11日のシンチェリータの周年がやって来る。
この1年間は特に忙しかったこともあるし、個人的にはAIの登場によりとても目まぐるしかったなと思う。未だにChatGPTをバリバリ使っているという話をすると怪訝な目で見られることが多いのであまり言わないようにしているけれど、ちょうど使い始めて1年が経つと、便利さや効率化とは別の観点から面白い発見が沢山あった。
例えば、自分の経験で言うと、20年ほど前にイタリアに留学した時に感じた、日本の文化や日本人の良いところを外に出て初めて再発見するような感覚で、AIにアプローチすることで人間らしさが浮き彫りになってくるということが起こった。一度、人間から離れると人間のことがより鮮明に見えるようになってくるような。
そして、こうして周年を迎えるタイミングになると、いつも1年間のテーマを考えるのだけど、今年は「頭と手と」というワードを思い付いた。
この14年間、四季折々の日本の果物を扱ってその都度、果物の状態を見て、追熟させたり、手で触って皮を剥いたり、種を取ったり、手作業で沢山処理してきた。考えようによっては、パートの人を雇ったり、機械化して自分でやらなくて良い作業かもしれないけれど、僕はとにかく、素材を自らの手を使ってジェラートを作ってきた。
例えば、柑橘はたくさんの品種があって、それぞれに皮の固さや香りが違っているのだけど、この品種の皮は香りとして使おう。とか、そういった判断ができるのは自分で作る意味がある。
時には生産地に赴き、自分で果物の収穫をさせてもらったりしていると、農家さんとの対話の中で、より良いジェラート向けの果物の状態で出荷してもらえることもあった。
それに産地の空気感や農家さんのキャラクターみたいなものを自分に落とし込んでいくことも、自分にとってはとても大切なことだ。毎年、年末に行っているベストオブシンチェリータという形でのお客さんからのフィードバックも楽しみにしている。
そうした自然との繋がりや人との繋がりの積み重ねがあって今がある。
こういったことは、何となく個人的に好きな民藝的な考えがあってのことだったのだろう。手作りであることや自然と人との繋がりということは「手」的なことであり、そこから派生して自分の「頭」が上手く回っていくような流れが大切なのだと思う。
例えば、パソコンに向かって、どんな新しいフレーバーを作ろうか考え続けるよりも、自分の手を動かしてジェラートを作っている時の方が圧倒的にアイデアが湧いてくる。人によるのだと思うけれど、頭と手の連動性というのは人間独自の機能なのではないかと思う。
絵を描く時に手が先に動き出すということもあるだろうし、こうやって文章を書く時もタイプしていると自然と言葉が出てくるということもある。身体性と脳の繋がりみたいなことをイメージしていると、そこにはAIとは違う観点が生まれてくる気がしている。
しかし、「頭と手と」をテーマにしようと思ったけれど、よくよく考えるとシンチェリータを始めてから一貫して大切にして来たことは、ジェラートだけでなく、黒板に手描きでPOPを描くことや、所々にアナログな要素を散らばめることだったので、あまり今までと変わらないのかもしれない。
それでも、改めてこれからのお店の在り方を考えると、今後はよりデジタル化が進み、アルゴリズム的な情報に左右され続ける時代が加速すると思うと、むしろ大切なことは自分たちの手を使うということ、頭を使うということ。に帰結するのではないかと考えている。
そう考えると、実はお店に来てジェラートを食べること自体、とても人間的なことだ。
お客さんの姿を見ていると最近よくそう思う。大抵の場合は、美味しそうに楽しそうにジェラートを食べていて、その姿はなんて言うのだろう…そう、とても微笑ましい。
ジェラートを食べることに大した意味なんてないだろうし、そんな大した意味のないものを一生懸命作っている僕たちもまた微笑ましい。そういった微笑ましさや、ある種の無意味さが人間らしさを感じさせるのではないだろうか。
そして、15年目にして初めて、シンチェリータの会社としての存在意義を考えました。「ジェラートで人々の日常にささやかな喜びを提供する。」というもので、このパーパスを軸に「頭と手と」を1年間のテーマに据え、日々のジェラート作り、お店作りに臨みます。
Posted on 03.08.2024

1980年神戸生まれ。2002年より主にインテリアデザインを学ぶため渡伊。約2年イタリアで学んだのち帰国後はインテリアデザイナーとして活動する。イタリアではジェラートを食べ歩き帰国後は日本でも色々なアイスやジェラートを食べるも、ピンと来るジェラートがなかったため2009年より自らジェラート作りを始める。半年ほど東京のジェラテリアで修行し新規ジェラテリアの立ち上げを行い、2010年よりジェラテリア・シンチェリータを開業。